乳がん治療手記１

第一のしこり～良性診断

２００２年３月第一のしこり発見、クリニック受診　（イギリス）

右胸のしこりに気付いたのはシャワーを浴びている時。小豆大程の物がはっきりと触れた。それまで全く気が付かなかったので、ゲッ、何コレ？！と驚いた。

１週間程様子を見たけれど、無くなる気配はない。まさかねーと思いつつも、万が一悪い物だったら早いに越したことないと思い、一応見てもらうことにする。この頃イギリスに住んでいて、国の健康保険に加入していたので、医療は無料で受けられる。タダということも有って、軽い気持ちで登録している近所のクリニックに予約を入れた。同居している相棒には余計な心配を掛けたくないので、黙っていることにする。

３月２１日クリニック予約の日。乳房にしこりがあるように思う、と医師に言うと、
｢じゃあ、見てみよう。看護師を呼んで来るので、上脱いでそこに横になってて｣
と医師は出て行き、すぐに看護師を伴って戻って来た。クリニックに登録した時に問診してくれた看護師さんだった。
｢あら、お久し振り｣
と挨拶してくれたけれど、上半身裸で診察台に横になっている状態で緊張もしてたので、無言で笑顔だけ返す。
｢どのあたりにしこりがあるように思うんですか｣
と、医師。
｢このあたりです｣
と、しこりに触れて見せる。
｢いつ気付いたんですか｣
｢２週間程前です｣
｢．．．．．これは悪い物じゃないと思うけど。反対側も見せて下さい｣
と触診してから、
｢看護師も触診していいですか｣
と聞く。看護師が触診している間、
｢右側１１時の方角にある。境界がハッキリしているでしょう｣
というようなことを言っていた。

｢悪い物ではなさそうだけど。がんではないと思うけれど、詳しく検査して貰って下さい。紹介状を送っておきます。何週間かしたら病院から連絡が来ると思うので、そちらで見て貰って下さい｣

やっぱりそうなったかー。でも一度検査しておいたら安心だな。まあ、先生が悪い物ではなさそうと言ってるから、大丈夫でしょ。

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２００２年５月３日超音波検査、細胞診　（イギリス）

病院から手紙が来たのは、クリニック受診をしてから３～４週間経ってからだった。ちょっと遅いやん、と思ったけれど、タダなのであまり文句は言えない。５月３日１１時４０分に予約を入れたので、病院の乳腺クリニックに来て下さい、都合が悪い場合は電話して下さい、とある。病院へ行くにはバスを乗り継がないといけない。面倒だなぁ。相棒の車に乗せて行って貰うか。でも、しこりのこともクリニックへ行ったことも言ってないので、今更言い出しにくいなぁ。

そこで、冷蔵庫に張ってあるカレンダーに｢病院１１時４０分｣と書き込んで、相棒が気が付けば話して、運転してもらおう、気が付かなければバスで行こう、と決めた。我ながら姑息な手段だと思ったけど、何か言い出すきっかけがないとねー。

果たして、（予想通り）相棒は気付いてくれた。月が変わってカレンダーの新しいページになったら、誰でも気付くわな（^_^;）。やっぱり精密検査となるとちょっと不安だったので、付いて来てくれると聞いて少し安心する。
｢クリニックの先生は悪い物じゃないと言ってたから、大丈夫でしょ｣
と相棒にも自分にも言い聞かせる。

予約当日、相棒の車で広い病院の敷地に入り、乳腺クリニックの標識に従って進む。乳腺クリニックはメインの大きな建物とは別棟の、小さな建物になっていた。

受付で名前を告げて待合室で待っている間に、後二人女性がやって来て座った。時間掛かるからもう帰っていいよ、学校にはバスで行くから、と相棒に言うと、いや待ってる、と言う。と、受付カウンターの女性二人がこちらを見て何か話し出した。何だろうと思っていると、
｢りまこさん」
と呼ばれた。行ってみると、
｢イギリスにはどの位いるの?｣
と聞いて来る。
｢もう２年位です｣
｢そうですか。じゃ座って待ってて下さい｣
何や一体。
｢ガイジンだからお金払わないと検査受けられないんと違う？｣
と相棒が言う。えーそんな今更。払うとなるといったいいくら掛かるんだろ。そうこうしている内に診察室から名前を呼ばれた。

部屋に入ると、そこに居る女性が、
｢ＸＸという者です。今からあなたの胸の状態について色々お聞きします。私は研修生ですが構わないですか｣
と前置きがあって、最後の生理はいつか、いつからしこりがあるのか、分泌物はあるのか、痛み痒み腫れはあるか、他に気が付いたことはあるか、等を聞いて用紙に書き込んで行く。
｢じゃ、先生を呼ぶのでここで待ってて下さい｣
と言い置いて出て行った。あの人は問診だけする役目だったのかー。

しばらく待っていると先程の問診女性と共に、
｢ドクター・Ｙと言います｣
｢ドクター・Ｚと言います｣
と、若い男性二人が入って来た。ドクター・Ｙは中国系だ。えらく若い先生やなー。この二人の方が研修生に見える。で、早速触診から始まる。

｢何かあるのがはっきり分かりますねー。じゃ、腕を横に伸ばしてゆっくり上に上げて下さい｣
と、ドクター・Ｙ。もう一人の先生は見ているだけ。
｢中の状態を超音波で見るので、上着羽織って外で待っていて下さい｣
別の若い女性に付いて行くとそこはもうひとつの待合室で、受付の待合室にいたあの二人の女性が同じ様に上着を羽織って座っていた。どちらも私とあまり歳は違わないと思う。この人達も同じ検査しに来たんだな。みんな仏頂面で座っているけれど、何となく少しだけ親近感を覚えた。

二番目に呼ばれて検査室に入って行くと、コンピュータのディスプレイのついた機械があり、そこにはまた別の男性が座っていた。
｢じゃ見てみますねー｣
と今度は前置きは抜きで検査が始まる。心臓の超音波を若い頃受けたことがあるので、どういう物なのかは予測がついていた。
｢これは悪い物じゃなさそうですねー。ハイもういいですよ｣
と、あっという間に終わった。ああ、じゃあ良性なんだ。

｢では、隣の部屋に行って下さい｣
言われるままに扉を通りそこの部屋で座って待っていると、ドクター･Ｙが入って来た。
｢まず良性だと思うんだけどねー、１００％確実にする為にニードル･テストをしたいんですけど｣
とすまなそうに言う。何？ Needle Test？針刺すの？意外な展開にうろたえていると、
｢ちょっと印を付けます｣
と言いながら、ペンでしこりのある辺りに点を書いた。そして、
｢針刺しますよー｣
と、普通の注射器の様な物を乳房に刺した。抜いた注射器を見ると、半透明の液体が入っていた。

｢結果は手紙で知らせます。じゃ、あちらの部屋に行って下さい｣
とまた別の部屋に通される。待っていると最初問診したＸＸさんが入って来た。
｢今日の超音波の結果では良性だということです。診断を確実にする為にしこりの細胞を取りました。結果は郵送しますので｣
と、書類を見ながら話し出す。
｢良性のしこりは、悪性になることはありません。この紙に説明があるので、読んで下さいね。質問はありますか｣
と言いながら、一枚の紙を渡してくれた。
｢このままにしていて、だんだん大きくなることは無いんですか｣
良性だと一安心だけど、大きくなってきたらどうすればいいんだろ。
｢この場合は、ほとんどありません｣
それなら何も心配することないな。結局検査代を請求されることも無く（ホッ^o^;）、病院を後にした。

ＸＸさんからもらった紙を改めて見てみた。超音波検査の結果だと思っていたら、今日は超音波と　needle test　（細胞診？）を行った、良性の　breast　tissue　（乳房の組織、織物？）　がしこりを形成するのはよくある、検査から私のしこりはそのような物であると思われる、このしこりによって将来乳がんになる可能性が高くなることは無い、細胞診の結果は手紙で３週間以内に知らせる等、ＸＸさんから聞いた事を印刷しているだけだった。

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２００２年５月１４日細胞診の結果（イギリス）～しこり消失

病院からの手紙が届く。思っていたより早かった。予想通り、異常なしとあった。

それにしても、｢検査の結果は異常なしでした｣とだけしか書いてないなんて、味も素っ気もない。もっと詳しい検査結果、このしこりはいったい何なのか、も教えてくれていいんじゃないの。検査当日にもらった紙からは、｢乳腺繊維｣ということなのか。まあ良性なんだから、そこまで知る必要もないか。

相棒にも結果を伝えると、
｢良かった、オッパイ二つ共残って｣
と冗談めかして言っていた。

それから数ヵ月後、８・９月頃だったと思う。しこりが無くなっていることに気付いた。あれ？おかしいな、と見つけようとするんだけれど、どんなに探ってみても、無い。消えてしまった？！しばらくしてからまた探してみたけれど、無い。きれいさっぱり無くなっている。わざわざ病院で細胞まで取って調べて貰ったのに何だったんだろ？中を吸い出したので、消えてしまったんかな？

色々考えたけど、時間が経つ内に、胸にしこりがあったことさえ忘れてしまった。

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